ベーグルにサーモンとクリームチーズを挟んだサーモンベーグルサンドイッチ。お好きな方も多いのではないのでしょうか。筆者もその一人です。
アメリカでは塩漬けされたサーモンの腹身のことをLoxと言い、燻製加工されたスモークサーモンと比較すると、塩気が強く生のサーモンのような食感が楽しめるのが特徴です。ベーグルサンドイッチにはLoxが使用される事が多く、サーモンベーグルサンドイッチのことをBagels & Loxとも呼びます。Loxの中でもNova Loxとはカナダノヴァスコシア州近海で獲れる鮭、厳密にはカナダのGaspéで獲れる鮭(Nova Scotian Salmon)を塩漬けにし冷燻されたものを言います。
サーモンベーグルサンドイッチ定番のトッピングはサーモン(Lox)、クリームチーズ、薄切りトマト、アクセントに紫玉ねぎのスライスとケッパー。
ニューヨークに無数に存在するベーグル屋さんの中で、一番美味しいサーモンベーグルサンドイッチを提供するお店はどこか? そんな興味からサーモンベーグルサンドイッチの評価が高いお店を厳選し4店をピックアップ。
実際にそれぞれのお店のサーモンベーグルサンドイッチを食べてみて、味の徹底比較するとともに、お店の歴史やこぼれ話なども紹介します。ニューヨークに来るならぜひお試しいただきたい食べ物の一つですので、読者の皆様のお店選びの参考になれば幸いです。
エントリーNo:1 Russ & Daughters
多くのレストランレビュー、情報誌などでニューヨークで一番おいしいサーモンベーグルサンドイッチを提供するお店と評されています。
お店の歴史は古く、1907年、現在はポーランドの一部であるStrzyzowという町からアメリカに移民としてやってきたJoel Russ氏。当時ローアーイーストサイドに到着する東ヨーロッパからのユダヤ移民たちに、樽で塩漬けしたニシンを売り始めました。
Joel氏には息子がおらず、可愛がってきた3人の娘たちを1935年に共同経営者にし、店名を「Russ & Daughters」に変更します。Russ & Daughtersはアメリカで初の「Daughters(娘たち)」を店名につけた事業者となりました。その時代はまだまだ女性の後継者が少なかったということですね。
現在のオーナーはJoel氏から数えて4代目になります。ホームページによるとアメリカで家族経営を行なっているビジネスのうち、4代目まで成功し生き残る率は1%にも満たないとのこと。その長きに渡る、地元ニューヨークにおける食文化形成や歴史上の貢献は、多くのメディアに取り上げられています。
ニューヨークにはユダヤ食を起源とする塩漬けの魚や肉を売るお店が沢山ありますが、ユダヤ教の教えによりお肉と乳製品を一緒に食べること、一緒に販売することは禁止されています。そのため、ユダヤ人の流入に伴い、ニューヨークにはユダヤ人達の食欲を満たすために2種類のお店が続々と登場します。
パストラミなど肉の塩漬けやピクルスを販売する「デリカテッセン(delicatessens)」と、魚や乳製品を販売する「アペタイジングストア(appetizing stores)」です。Appetizerとは前菜というカテゴリーで使われることも多いですが、元はラテン語appete(欲望、憧れ、期待を持たせるもの)から派生し、東ヨーロッパのユダヤ人にとってはベーグルと一緒に食べるものと理解されています。代表的なものには、さまざまな種類の燻製または塩漬けされたサーモン、自家製サラダ、クリームチーズがあります。
1960年頃までには、アペタイジングストアはニューヨークすべての区画に存在し、ローアーイーストサイドだけでも最盛期には30店(!)のアペタイジングストアがあったとのことです。その1つであるRuss & Daughtersは、今なおユダヤ移民がもたらした食文化を継承し発展させることに尽力しています。
ということで、この本命中の本命であるRuss & Daughtersを訪問。待ち時間は覚悟していましたが、日曜のお昼過ぎという繁忙な時間帯だったこともあり、入店までに約50分待ちました。もともと人気店な上に、2021年8月の時点では、コロナ対策として店内に入れる客を5名に限定していたためです。
コロナ以前は番号札を取って、番号が呼ばれるまで待機する形式だったようです。店内に入ったら、手が空いた担当者が「Next」と呼んでくれるのを待ちます。
(日曜の昼下がりのため、長い列ができています。)
■注文:CLASSIC($15.00) +トマト、ケッパー、紫玉ねぎのトッピング(各50¢追加) 合計$16.50
まずは希望のサンドイッチ(CLASSIC)を選び、「ベーグルの種類」「クリームチーズの種類」「トッピング有無」「ベーグルをトーストするか」を選択し伝えます。
(ショーケースには数々のサーモンが鎮座!)
約1時間待って手に入れたRuss & Daughtersのサーモンベーグルサンドイッチ。それでも待つ価値はあると思えるほど美味しかったです!以下に採点表を掲載します。
項目 | 得点(5点中) | コメント |
ベーグル | 3.5 | 「Everything」を選択。トーストしてもらったためか、少し乾燥気味かなと思いました。ベーグル自体は普通のベーグルといった感じ。 |
サーモン | 5 | 「NOVA」を選択。3層くらい惜しみなくサーモンが入っています。このサーモンは本当に濃厚で適度なねっとり感もあり。そして口の中で溶けていきます。塩加減もちょうど良く、今回紹介した4店の中で間違いなく一番美味しいサーモンだと思いました。 |
クリームチーズ | 4.5 | 「プレーンを選択」クリーミーで濃厚なタイプだが、くどさはない。 |
全体のハーモニー | 4.5 | トマトとケッパーと紫玉ねぎは各50¢追加となりますが、絶対付けるけることをおすすめします。ケッパーもオニオンも割とたっぷりですが、主張しすぎず、全体をうまくまとめています。 |
合計 | 17.5 |
他にOrchard Stに「Russ & Daughter Cafe」やブルックリンに店舗を展開。両店舗ではオンラインオーダーも受け付けているようです。
RUSS & DAUGHTERS (ラス&ドーターズ) | |
住所 | 179 E Houston St, New York, NY 10002 |
最寄り駅 | 地下鉄: F「2nd Avenue 」下車徒歩約1分 |
電話番号 | 212-475-4880, ext. 3, →1 |
ホームページ | https://www.russanddaughters.com/ |
その他 | The Cafe (127 Orchard St, New York)とBrooklyn(141 Flushing Ave, Brooklyn)にも店舗を展開 |
エントリーNo2: Tompkins Square Bagels
オーナー兼経営者のChristopher Pugliese氏は、ブルックリンの南部、コニーアイランドに近いGravesendに育ち、15歳の頃、近所にあったBake City Baglesで働き始めます。Pugliese氏によるとBake City Baglesのベーグルは宇宙一で、当時の同僚たちは現在ニューヨーク各地で有名ベーグルショップを開いているそうです。
Pugliese氏のBake City Bagles時代の上司だったSteveさんは、ベーグル作りのプロセスの全ての側面において、最大限の注意を払い、決して妥協することなく、丁寧に取り扱うことを身をもって教えてくれました。当時15歳の少年には、それが時に面倒だと思ったこともありましたが、現在のTompkins Square Bagelsの成功を支えているのは、このSteve氏の教えがあったからとのこと。
少量生産や古典的なベーグルの生産方法がかっこいい(クール)なものと認知される随分前に、Steve氏からそれらを学ぶことができたのです。
Pugliese氏はまた、イーストビレッジとそこに集う人々をこよなく愛しており、彼が40歳の時(2011年)にAvenue Aに「Tompkins Square Bagels」を開店します。イーストビレッジに集う人々にとって、温かく人々を迎える雰囲気のある、まるで家のようなお店にすることに最大限の力を注いでいます。
そんなTompkins Square Bagelsのサーモンベーグルサンドイッチは、Russ&Daughtersに並ぶ高い評価を得ています。待ち時間は覚悟でしたが、祝日の朝9:30頃に訪問すると、待ち時間なく注文を行うことができました。
■注文:Bagel with Lox Deluxe $14
注文の方式:お店の奥にいるスタッフに伝えると、紙の伝票に商品を記載してくれます。サーモンベーグルサンドイッチのトッピングありの品名は「Bagel with Lox Deluxe」と注文します。そうすると「ベーグルの種類」「クリームチーズの種類」「トーストするかどうか」を聞いてくれます。注文が終わったら、伝票の控えを渡してくれるので、レジに向かい伝票を渡して代金を支払います。コーヒーはレジで注文できます。
(ショーケース奥:沢山のクリームチーズが並んでいます。 手前:サラダ等デリ商品も充実)
その後お店の外で商品が出来上がるのを待ちます。私は15分くらい待ちました。お店の中には立食のカウンターはありますが、基本的にはテイクアウトが前提です。私も含めて近くのTompkins Square公園でベーグルを食べる人が多いです。
(コーヒーはカウンターで受け取り。ベーグルは店外で待つ。クッキーなどペーストリーも充実)
項目 | 得点(5点中) | コメント |
ベーグル | 4 | 「Plain」を選択。トースト不要と伝えたが、トーストされた感あり。 筆者はもう少ししっとり目のベーグルが好みだが、味は普通に良い。 |
サーモン | 4 | 挟まれているサーモンはそれほど多くないが、味は濃くて満足感はある。 |
クリームチーズ | 5 | 多くの人が選ぶという「Scallion」を選択。このクリームチーズ、サラッとした舌触りながら、濃厚で美味しい!他のトッピングやベーグルによく絡んで、全体をまとめる重要な役割を果たしている。癖になる味。 |
全体のハーモニー | 4.5 | クリームチーズのおかげか、全体のまとまりがとても良い。トマトが他と比べると少し厚切りで、爽やかな酸味がクリームチーズとサーモンの濃厚さをうまい具合に中和してくれる。 |
合計 | 17.5 |
他に2nd Aveにも店舗があります。
Tompkins Square Bagels(トンプキンズ・スクエア ベーグル) | |
住所 | 165 Avenue A. New York, NY 10009 |
最寄り駅 | 地下鉄: L「1st Ave」下車徒歩約6分 |
電話番号 | (646)351-6520 |
ホームページ | https://tompkinssquarebagels.com/index.html |
その他 | 2nd Ave. (184 2nd Avenue)にも店舗を展開 |
エントリーNo3: Ess a Bagel
もはや説明不要のニューヨーク1有名なベーグル店。FlorenceとGeneのWilpon夫妻と、Florence氏の弟であるAaron Wenzelberg氏が1976年に開業。オーストリアのベーカーだった一族は、自然に芸術的で、完璧なベーグルを作るようになり、創業2年以内にはTri-Stateエリア(ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルベニア)でNo1ベーグルに選ばれます。
2013年にFlorenceは亡くなりますが、彼女の妹のMurielと、姪っ子のMelanieが後を継いで運営するようになりました。
Ess a bagelのベーグルが美味しい秘密は、手で生地を丸めるテクニック、小麦粉、そしてベーカリー仕込みの熟練の技にあるようです。
お店の名前「Ess-a-Bagel」とはイディッシュ語で「Eat a Bagel」という意味だそう。*イディッシュ語…米国や東欧などのユダヤ人移民の間で話される、ヘブライ語、ドイツ語、スラブ語が合わさってできた言語。
■注文:A Signature Favorite Sandwich ($15.20)
土曜のお昼前にGrubhubから事前にピックアップオーダーしました。オンラインオーダーを受け付けてくれているのはありがたい。お店に着くと店の外まで続く長蛇の列です。現地で注文するなら待ち時間覚悟ですね。
項目 | 得点(5点中) | コメント |
ベーグル | 5 | 「Whole Wheat(全粒粉)Everything」を選択。ベーグルのレベルはダントツのNo1! 程よいしっとり感もありつつ、硬すぎない。 |
サーモン | 4 | Novaがデフォルト。適量挟まれており、普通に美味しい。 |
クリームチーズ | 4 | Scallionクリームチーズがデフォルト。 |
全体のハーモニー | 4 | レタスが入っているのが他の3店にはない特徴で、さっぱり感を増している。トマト、ケッパー、紫玉ねぎ、それぞれがバランスよく良いハーモニーを奏でている。 |
合計 | 17 |
万人が美味しいと思えるレベルの高いサーモンベーグルサンドイッチですが、前述の2店に比べパンチが1歩足らず僅差で3位。
Ess a Bagle(エッサベーグル) | |
住所 | 831 3rd Ave, New York, NY 10022 |
最寄り駅 | 地下鉄: E, M「Lexington Av/53st」または6「51st」下車徒歩約2分 |
電話番号 | (212) 980-1010 |
ホームページ | https://www.ess-a-bagel.com/ |
その他 | 2021年9月にTime Out Market New York(55 Water Street)に新店舗がオープン |
エントリーNo4: Zabar’s Cafe
アッパーウェストサイド、West 80thストリートとBroadwayの交差点にお店を構えて87年!オレンジのロゴでお馴染みの食料品店Zabar’s Storeに隣接する「Zabar’s Cafe」のBagel & Novaが最後にエントリー。旅行雑誌等でもよく紹介されているので、ご存知の方も多いでしょう。
Zabar’sも1934年から代々続く家族経営のお店。現在は創業者LouisとLillian Zabar夫妻の子供である、Saul氏とStanley氏、そして彼らの子供たち(第3世代)で経営されています。お店の始まりはLouis氏が彼のアペタイジングコレクション(アペタイジングについてはエントリーNo.1.Russ & Daughtersのこぼれ話を参照)とともにカスタムメイドに焙煎したコーヒー豆を売り始めたこと。
その後コーヒービジネスはSaul氏に引き継がれますが、Louis氏が創業時から守ってきた品質へのこだわりと、常に顧客に敬意を払う姿勢は、現役世代にも受け継がれています。創業当時は通りの1区画を占めるだけだった店舗は、現在では1ブロックを占めるまでに拡大しました。しかし今でもカウンター越しに顧客の注文を受けてから燻製された魚を手作業でスライスしたり、チーズカウンターでの新商品のサンプル提供など顧客へのサービス姿勢は変わりません。
品物を見るだけでワクワクするZabar’sの食料品店の徹底解剖はまた別の記事で紹介するとして、サーモンベーグルサンドイッチは食料品店の隣にある「Zabar’s Cafe」にて購入します。入口は80thストリートとBroadwayの交差点の角にあります。Cafeと言っても座って食べられるテーブルは店内にありません。
筆者が訪れた時は数組が並んでいるだけで、ほぼ待ち時間なく注文できました。注文が終わったら店外に出て、受け渡し用の小さな小窓から出来上がった商品を受け取ります。
■注文:Bagel Sandwich – Zabar’s Classic Nova ($13.99)
基本のトッピングはNovaサーモン、紫玉ねぎ、ケッパー、そしてトマト。「ベーグルの種類」、「クリームチーズの種類」、「ベーグルをトーストするかどうか」を選択します。
項目 | 得点(5点中) | コメント |
ベーグル | 4 | 「Sesame」を選択。重量感のある密度の高いベーグル。大きさも少し大きめ。 |
サーモン | 4.5 | たっぷり挟んでくれる。味も濃厚で美味しい。 |
クリームチーズ | 4 | 「Plain」を選択。普通に美味しいが、Scallion入りにするのをおすすめ。 |
全体のハーモニー | 3.5 | もう少しだけクリームチーズの存在感があっても良いかも。 |
合計 | 16 |
Zaber’s Cafe (ゼイバースカフェ) | |
住所 | 2245 Broadway, New York, NY 10024 |
最寄り駅 | 地下鉄: 1, 2「79 the Street 」下車 徒歩約1分 |
電話番号 | (212) 787-2000 |
ホームページ | https://www.zabars.com/on/demandware.store/Sites-Zabars-Site/default/Link-Page?cid=OUR_STORE_ON_BROADWAY |
まとめ
今回エントリーした4店、甲乙つけ難く、もはや好みの問題になると思うのですが、私の個人採点では、Russ & DaughtersとTompkisonsが半歩リードかな?という感じです。
クリームチーズの美味しさと全体のバランス&値段で選ぶならTompkisons。
ベーグルのクォリティーならEss a Bagels。
ボリューム面と併設する魅力的な食料品店に立ち寄れることや、観光地へのアクセスを加味するとZabar’sかなと思います。
TompksonsとEss a Beglesはベーグル専門店なので、他にも多数のベーグル(サンドイッチ含む)があるのがメリット。Russ & Daughters とZaber’sはアペタイジングストアを起源とするので、サーモンの品質は確かだと思いました。
ここまで記事を読んでいただきありがとうございます。サーモンベーグルサンドイッチには興味深い歴史もあることがわかり、筆者自身ますますニューヨークのフードシーンに魅了されました。本記事が読者の方の参考になれば幸いです。